問66
$\{ u_n \}$がフィボナッチ数列ならば,$\lim_{n \to \infty} \frac{u_{n+1}}{u_n} = \frac{1 + \sqrt{5}}{2}$ であることを証明せよ.
フィボナッチ数列 $\{ u_n \}$ は $u_1=1, u_2=1, u_{n+2} = u_{n+1} + u_n ( n \ge 1 )$で定義されます.この問題の主張は,フィボナッチ数列のある項とその次の項の比が黄金比に収束するということです.等比数列ならばその比は一定だが,フィボナッチ数列はだんだんと黄金比になります.
証明の方針
本問題の目標は,$u_{n+1}/u_n$ の極限が黄金比に等しいことを示すことです.すなわち,
- $a_n = u_{n+1}/u_n$ とおいたとき,$a_n$ が収束すること.
- 部分列の単調性・有界性から,収束性を示します.
- $a_n$ の極限は黄金比であること.
- 部分列の極限から,$a_n$の極限を特定します.
を示すことと同じです.
解答
$a_n = u_{n+1}/u_n$ とおく.$a_n$ が単調増加もしくは単調減少で有界ならば収束するので,単調性を調べるために $a_{n+1} - a_n$ について考えたいが,うまく単調性を見い出せません.$a_1,a_2,a_3,...$ を計算してみると,振動しているようなので,部分列(偶数番目・奇数番目)の単調性からアプローチします.部分列がともに同じ値に収束すれば,数列もその値に収束するからです.
1. 部分列の単調性を示す.
$a_n$ は振動しているので,以下で偶数番目と奇数番目の部分列の単調性を示します.
偶数番目の部分列 $a_{2k}$ の単調減少性を示す.
偶数番目の部分列 $a_{2k}$ が単調減少であること、つまり $a_{2k+2} - a_{2k} < 0$ が成り立つことを示します。
$$ \begin{aligned} a_{2k+2} - a_{2k} &= \frac{u_{2k+3}}{u_{2k+2}} - \frac{u_{2k+1}}{u_{2k}} \\ &= \frac{u_{2k+3} u_{2k} - u_{2k+1} u_{2k+2}}{u_{2k+2} u_{2k}} \end{aligned} $$ここで、分子 $u_{2k+3} u_{2k} - u_{2k+1} u_{2k+2}$ に着目し,フィボナッチ数列の漸化式 $u_n = u_{n-1} + u_{n-2}$ を用いて変形します.
$$ \begin{aligned} u_{2k+3} u_{2k} - u_{2k+1} u_{2k+2} &= (u_{2k+2} + u_{2k+1}) u_{2k} - u_{2k+1} u_{2k+2} \\ &= u_{2k+2} u_{2k} + u_{2k+1} u_{2k} - u_{2k+1} u_{2k+2} \\ &= u_{2k+2} u_{2k} - u_{2k+1} (u_{2k+2} - u_{2k}) \\ &= u_{2k+2} u_{2k} - u_{2k+1}^2 \end{aligned} $$ここでカッシーニの恒等式を適用します.これはフィボナッチ数列の重要な性質です.
カッシーニの恒等式
$$u_{n+2} u_n - u_{n+1}^2 = (-1)^{n+1}$$すると $u_{2k+2} u_{2k} - u_{2k+1}^2 = (-1)^{2k+1}$ なので,
$$ \begin{aligned} a_{2k+2} - a_{2k} &= \frac{(-1)^{2k+1}}{u_{2k+2} u_{2k}} \\ &= \frac{-1}{u_{2k+2} u_{2k}} < 0 \end{aligned} $$となり,すなわち $a_{2k+2} - a_{2k} < 0$ なので,$a_{2k}$ の単調減少性が示されました.
奇数番目の部分列 $a_{2k-1}$ の単調増加性を示す.
奇数番目の部分列 $a_{2k-1}$ が単調増加であること、つまり $a_{2k+1} - a_{2k-1} > 0$ が成り立つことを示します。偶数番目の部分列と同様にすると,
$$ a_{2k+1} - a_{2k-1} = \frac{1}{u_{2k+1} u_{2k-1}} > 0 $$となり,すなわち $a_{2k+1} - a_{2k-1} > 0$ なので,$a_{2k-1}$ の単調増加性が示されました.
2. 部分列の有界性を示す.
偶数番目の部分列の有界性を示す.
偶数番目の部分列 $a_{2k} = u_{2k+1} / u_{2k}$ は、すでに単調減少であることを示しました.したがって、この数列は最初の項 $a_2$ が最大値となります。$a_2 = u_3 / u_2 = 2 / 1 = 2$.ゆえに、$a_{2k} \le 2$ が常に成り立ちます。
次に、この数列が下に有界であることを示します。ここで数列$a_n$は以下の関係式が成り立つことを使います.
$$ a_{n+1} - a_n = \frac{(-1)^{n+1}}{u_{n+1} u_n} $$数列 $a_n$ の定義とカッシーニの恒等式から導くことができます.$(-1)^{n+1}$ の符号がポイントです.
$n$ が偶数の場合,つまり $n = 2k$ とすると,
$$ a_{2k+1} - a_{2k} = \frac{-1}{u_{2k+1} u_{2k}} < 0 $$となり,$a_{2k+1} < a_{2k}$ が成り立ちます.これは、奇数番目の項は、直前の偶数番目の項より小さいことを意味します。(例: $a_3 < a_2, a_5 < a_4$ )
$n$ が奇数の場合,つまり $n = 2k - 1$ とすると,
$$ a_{2k} - a_{2k-1} = \frac{1}{u_{2k} u_{2k-1}} > 0 $$となり,$a_{2k} > a_{2k-1}$が成り立ちます.これは、偶数番目の項は、直前の奇数番目の項より大きいことを意味します。(例: $a_2 > a_1, a_4 > a_3$ )
これら2つの結果をまとめると,偶数番目の数列の項は前後の奇数番目の項より大きいということです.そして,奇数番目の部分列が単調増加で $1 \le a_{2k-1}$ であることを合わせると,$1 \le a_{2k-1} < a_{2k} \le 2$ なので,$1 < a_{2k} \le 2$ です.つまり,偶数番目の部分列は有界であることが示せました.
奇数番目の部分列の有界性を示す.
偶数番目の部分列の有界性を示す中で,$1 \le a_{2k-1} < a_{2k} \le 2$ が明らかになりました.これはつまり,$1 \le a_{2k-1} < 2$ なので,奇数番目の部分列の有界性も示せました.
3. 極限を示す.
偶数番目の部分列 $a_{2k}$ と 奇数番目の部分列 $a_{2k-1}$ はともに単調な数列で有界であることがわかりました.したがって,それぞれ収束します.そこで,$\lim_{k \to \infty} a_{2k} = L_e, \lim_{k \to \infty} a_{2k-1} = L_o$ とします.
極限が同一であること.
数列 $a_n$ は以下の関係を満たすことが計算するとわかります.
$$ a_{n+1} = 1 + \frac{1}{a_n} $$つまり,
$$ \begin{aligned} a_{2k+1} &= 1 + \frac{1}{a_{2k}} \\ a_{2k} &= 1 + \frac{1}{a_{2k-1}} \end{aligned} $$となり,両辺,極限を取ると
$$ \begin{aligned} L_o &= 1 + \frac{1}{L_e} \\ L_e &= 1 + \frac{1}{L_o} \end{aligned} $$となります.この連立方程式を解くと $L_o = L_e$ となります.極限が同じであることがわかりました.
極限を特定する.
上の連立方程式から,共通の極限値を $L$ とすると
$$ L = 1 + \frac{1}{L} $$が成り立っており,これを $L$ について解くと,$L$が正であることから,
$$ L = \frac{1 + \sqrt{5}}{2} $$となります.
以上より,$ \lim_{n \to \infty} \frac{u_{n+1}}{u_n} = \frac{1 + \sqrt{5}}{2}$ が示せました.
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